![]() 他藩の領内は通行する方もされる方も気遣いなものであった。 隔年に通る通常の道ですら今まで見てきたように気を遣ったのに、 さらに都合で他の経路をたどる時は更に気を遣うことになる。 1728年の秋田藩佐竹氏の参勤交代は非常に気を遣うものだった。 この年は4代将軍家綱以来途絶えていた将軍の日光参拝が行なわれる予定になっており、 この行列に行き交うと長期間足止めをくうことになってしまう。 そこで秋田藩は宇都宮宿を迂回して水戸街道を通行することにした。 水戸藩は言わずと知れた御三家。しかも水戸の地はかつて佐竹氏の旧領の地。 常陸の旧族大名であった佐竹氏は関ヶ原の戦いで石田三成に荷担したため、 秋田に転封になったのである。水戸藩からすれば微妙な感情がある。 この年1月18日、佐竹氏は老中松平乗巳へ次のような文面で通行の許可を伺った。 「私の参府の時期、例年のように雪が深ければ先だって願っておりますように 3月末から4月にかかって参府いたしますが、日光御社参の御成街道を 通行することなっていますから、3月末から4月にかかるようでしたら 水戸街道を通行してもよろしいかどうか、お伺いいたします」 これに対して幕府からは「伺いの通致すべく候」と許可の返答がきた。 これより、水戸街道通行の準備が始まる。 2月、道や宿の下見のため、この年の供番である清水忠右衛門と川又善左衛門と 徒の者3人が派遣された。彼等には次のような指示がなされた。 「水戸街道に派遣した忠右衛門と善左衛門、それに徒の者3人へ 水戸領を通行している時、御家中の由緒などを尋ねたり、 縁のある者であっても連絡など一切しないようにと仰せ渡された。 御旧領のことなどで、通行することを遠慮すべきかどうかとは思われているけれども、 将軍の日光社参のため、しかたなく通行するのである」 家臣達が水戸領の者へ自分の家の由緒を尋ねたり、 縁のある者と接触することは現藩主の水戸家を刺激することになる。 本来、旧領などは通るべきではないのだが、 しかたなく…という佐竹氏の思いが伝わってくる。 このような参勤交代にまつわる諸儀礼を見ると、大名の領地に対する感覚がよく判る。 名目上は日本全国全て将軍のものであり、それを諸候に与えているということであるが、 そもそも領地はそれぞれが先祖の功績によって得たものである。 従って、領地はやはり自分の庭であり、領地の端に至るまでそのような意識があった。 さて、出立が近づいた3月4日には水戸宰相に「このたび水戸街道を通行」いたしますが、 道橋などの掃除など、お気遣いないように」と江戸の留守居役が言上している。 秋田藩の行列が出発したのは同月7日である。 10日には下見に行っていた清水忠右衛門が矢吹まで迎えに下り、 20日、行列は矢吹を出発して水戸街道を通って江戸に到着した。 そして、江戸到着後の5月、秋田藩は領内通行の御礼に水戸宰相に馬1匹を進上している。 特殊な因縁のある土地を通る場合にはこれほどの気遣いが必要だったのである。 歴史書籍06:江戸300藩 バカ殿と名君 ◆八幡和郎著 ◆2004年発行 ◆光文社新書 ◆定価900円 ![]() この本、結果からいうと全然満足していない。300藩全てから選りすぐりの殿様というが、要は全国ガイドマップ式の薄っぺらい内容に終始している。更に、名君中の名君の呼び声高い松江藩主松平治郷についても通り一辺倒の当り前のことしか書いていない。こんなことは学校の教科書を見たらどこにでも書いてあることばかり。ある本を読んでいたらこんな内容にぶち当たった。曰く「江戸後期の出雲松江藩7代藩主松平治郷はわずか17歳で封を継ぎながら、名家老朝日丹波の後見によって見事に藩政を再興し名君として知られている。しかし、茶人不昧としても名高い。弱冠20歳にして既に茶道随筆「贅言」1巻を著わし、茶道が修身斎家治国平天下の道であることを力説している。 その中に人間の諸々の悪行や迷いの根源は「飽くことを知らぬ貧りの欲にあり」という。このどうにもならぬ貧欲に引きずり回されて迷い苦しんでいる境遇を仏法では餓鬼道と呼ぶ。餓鬼道から脱却して悟りの境地に至るためには何とかして欲望を抑えなければならない。そのために最も大切な心構えとして強調されるのが「吾唯知足」ということに他ならない。利休の侘び茶の基本も「知足」という禅の悟りにあった。そのことは「家はもらぬほど、食事は飢えぬほどにて足る事也」という南方録の一節に明らかである。20歳の時、知足を力説した松平治郷は晩年藩政が豊かになると名物茶器の蒐集にうつつを抜かすことになる。人間とは所詮そうしたものか」といった文章だった。こういう新たな見方が必要なんだ。
by tomhana190
| 2006-05-30 07:12
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人生の御負け
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