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リハビリ日記:103

酒の話3
 
近頃、何かといえば飲食についてウンヌンしたがるヤカラが増えたようである。
酒に関してもまたしかり。
やれ、舌にのせてとか、ここは鼻に抜いてとか、コクがどうだ、キレがなくては…
ああだこうだと夜の酒場で聞こえるように言いつのるヤカラを見ていると、
つくづく昔、私の若かりし頃にどこにでもいた先人達のことが忍ばれる。
夏であっても静かに黙って焼酎の湯割、それも六四に割った芋焼酎を
ひたすら飲んでいた男達のことを思い出す。
いつも同じ銘柄のボトルを抱いて、瞑目しながら時々、ウム! と
誰にも聞こえないように小さく呟くのみで、いかなることがあろうとも、
そんな自分の姿勢を頑として変えようとしない。
そういう夜の達人達はまずもって自分の酒について語ろうとはしなかった。

あまりにも安直に、美食だのグルメだのという言葉がもてはやされている昨今だが、
何でも昔から「味は三代かかる」という言葉があるそうだ。
ましてや、年齢・職業・地位などに何ら関係のない、ただの酒である。
個性的で、頑固で、さり気ない中に無限の奥行きを持つこの魔性の液体を
身体の最も深い部分で理解できるようになるのは、さて私の人生で事足りることか。
ちょっと心配にもなってくる。

そうして今日もまた、夜を迎える。
様々な異なる種類の酒を飲み、時には何を思ったか外国の銘柄を口にしたこともある。
だが、結局ここへ戻ってくる。幾世代も飲み継がれてきた日本人の焼酎に。
それも薩摩の臭い臭い芋焼酎に。
そのことを知っている男達は当然のように寡黙になる。
それは自分の女房を人前で決して誉めたりしないのと同じことだと思っている。
また一日が終わり、漆黒の闇に包まれる。
その夜の底で、穏やかに微笑みながらいつもの湯割を傾ける
寡黙な男達が日本中の至るところにいた。その末席にちょっと前の私もいたはず。
そして、そのことに密やかな誇りをちょっぴり感じている。

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中国から鹿児島にサツマイモが入ってきて300年が経つという。
そんな鹿児島ではサツマイモの全生産量の13%程度が食用ではなく
焼酎の原料に使われているという。そして現在、約85社がその芋焼酎を造っている。
だから、鹿児島には日本酒の蔵元は1軒もないという話だ。
そういう土地柄なのだ。
そんな鹿児島だから居酒屋で「酒」といえば芋焼酎が当り前のように出てくる。
鹿児島の方言で晩酌のことを「だれやめ」と言うそうだ。
その意味は「だれ」=だるい、「やめ」=止める。
疲れを癒し、明日への活力を呼び戻す酒として人々に親しまれている酒、
それが芋焼酎だ。
ある時「森伊蔵」という芋焼酎の値段を聞いてビックリしたことがある。
何でもプレミアが付いて1本2万も3万もするらしい。
これも時代なのかと思ったが、よく考えてみると、どう考えてもおかしい。
芋焼酎が2万も3万するなんて、払う方も払う方だがそんな値段で出す方も、
自分達が何をやっているのかホントに判っているのか。
私は芋焼酎といえばまっ先に「さつま白波」のことを思い出す。
私にとっては思い出深い酒なのだ。
どちらかというと本格的硬派辛口の位置付けといえるこの酒。
芋焼酎だから臭くて当然。私は好きだな。
「クウ〜臭か〜、しかし旨か〜」
by tomhana190 | 2006-04-29 07:52


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