しかし、76年に出された「Small Change」辺りから何かが変っていた。 「誰が聞いてもジャズだな」という感じから「トム自身が持っている旋律だな」というものに 変っていったようだった。上手く言えないけれど私にはそんな気がした。 トムの創る世界にジャズという既成の入れ物をもはや必要としなくなったとでもいうように、 劇的な変化ではなく徐々に変っていったという感じだった。 その頃が彼の映画への進出と、どのような係わりがあるのか判らないし興味もないのだが、 とにかく、この「Small Change」と次の78年に出された「Blue Valentine」と 80年に出された「Heartattack and Vine」辺りが彼の活動のピークだといっても 過言ではないと思っている。これらのアルバムの中から何曲か取り上げた。 あのWaltzing Matildaを効果的に使ったバラード「Tom Traubert's Blues」 トムのやりたかったジャズをトム風に表現した「Blue Valentine」 簡単な3コードで出来ているとは思えない「Jersey Girl」 詩情性に溢れたバラード「Saving All My Love for You」などだ。 ![]() ![]() トム・ウェイツと言うと私にとっての思い出深い曲は何といっても 「Heartattack and Vine」に収録されていた「Jersey Girl」だ。 労働歌のフォークソングのようでもあり、ヨーロッパの賛美歌のようでもあり、 黒人のゴスペルのようでもあり、精神の思いのたけをぶちまけたような 投げやりの歌い方と相まって、まさにトムの世界、一種独特のしかし現実にある世界を 彷佛と醸し出していたんだな。案の定、歌詞の世界は安物映画に出てくる ワンシーンのように「今宵、川を渡ってジャージー州へ行こう。 Jersey Girlを連れてカーニバルへ行こう」と歌っている。 この歌はブルースコードではないものの、使われたコードは3コードしか出てこない。 そんな単純なコードでこんな歌を作るなんて彼もやるもんだと思った。 この曲は私が歌ったトムの曲の中では1番多くライブで歌ったはずだ。 研チャンが「次は、ああジャージの女か」と言ったのを何故か思い出した。 この他には同じLPにあった「Saving All My Love for You」も 捨て難い名曲だと思ってたが、バンドのメンバーからはウンともスンとも 言われずに忘れ去られてしまったのかな。 ![]() その後のトムは俳優業の方が向いていたのか、新譜の出方も遅くなり、 出たと思ったらやってる曲も完全にブッ飛んだトムにしか判らないような世界が 延々と展開されていた。83年の「Swordfishtrombones」85年の「Rain Dogs」 87年の「Franks Wild Years」と続くのだが、ここら辺になると昔の面影は きれいさっぱりないに等しい。精神に異常をきたした者独特の偏執狂的な思い込みの 激しい曲ばかりのような気がする。当然私もここら辺で彼と縁を切りたかったのだが 一度魂を取られた身としてはそうもできずに、 まだしばらく、彼の魔術にまんまとハマっていた。 そうした時にトムのアーリ−イヤーなるCDが世に出てきた。 これはトムの1stアルバムの前後に収録された音源が元になっている。 レコーディングの際にトム自身がプロデューサーのために吹き込んだオオモトの録音盤とか 平たく言うとプロデューサーのボツでオクラになったヤツとかが入っていた。 しかし、こんな中途半端なヤツでも最近の訳の判らんヤツよりはよっぽどまし。 確か2枚出たけど、その中から何曲かはやってるはず。 ![]() ![]() ![]() 「Sins of My Father」はこんな感じ。 ♪ この続きは次回へ
by tomhana190
| 2006-02-27 10:45
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人生の御負け
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